不眠(肝鬱化火→心神不寧) 随伴症状:軽度鬱症
立野さん 男性33歳回数39回期間181日間
仕事でのストレスが原因で眠れなくなる。寝つきも悪く、眠りも浅い。仕事はつらさが伴うものと自分に言い聞かせていたが、気持ちが塞いでいることが多く、明るく振る舞うことができない。病院で処方された睡眠導入剤を服用し、一応眠れるようにはなっている。以前のようにはつらつとした自分を取り戻したいと来院。
- 上田
- 眠れないということですね
- 立野さん
- はい。病院でもらった薬を飲んで一応眠れています
- 上田
- お薬を飲まないと?
- 立野さん
- 寝つきが悪く、眠りも浅いです。できれば薬は飲みたくありません
- 上田
- 眠れないことで、お仕事や生活に支障をきたすことはありますか?
- 立野さん
- 何か、ぼーっとしてしまうことがあります
- 上田
- 眠れていないと、どうしてもそうなりますね。お仕事はデスクワークですか?
- 立野さん
- はい
- 上田
- お休みの日でも、(睡眠の)状況は同じですか?
- 立野さん
- あまり変わらないけど、少し遅くまで寝ています
- 上田
- 眠れなくなったきっかけは?思い当たることはありますか?
- 立野さん
- 仕事のストレスです
- 上田
- いつ頃からですか?
- 立野さん
- 1年位前でしょうか
- 上田
- (睡眠の状態は)数か月と比べてどうですか?悪くなっていますか?
- 立野さん
- あまり変わりません
- 上田
- お仕事のストレスということですけど、現在も状況は変わっていませんか?
- 立野さん
- いえ。一番悪かった時期に比べると最近は少しマシになったんですけど、睡眠だけが戻らないんです
- 上田
- どんなストレスなんでしょう?差し支えなければお話しいただけますか?
- 立野さん
- 大きなプロジェクトのリーダーを任されて、すごくプレッシャーを感じまして
- 上田
- なるほど。大変ですね
- 立野さん
- ええ、まぁ
脈と舌を見せてもらう
- 上田
- 舌先が紅いですね。心に熱があることを表しています
- 立野さん
- 心に熱?
- 上田
- はい。五臓の心です。五臓には、肝、心、脾、肺、腎があります
- 立野さん
- 心臓ですか?
- 上田
- 心臓のことをいう場合もありますが、ここでは心は脳と考えてください。
- 立野さん
- ・・・・・
- 上田
- 心(しん)ではなくて「こころ」ですね
- 立野さん
- あー、なるほど
- 上田
- まず肝がストレスを受け止めます。ストレスを受け続けると肝は鬱々としてきます。これが肝鬱、その状態が続くと肝鬱火化となり眠れなくなったりします
- 立野さん
- はい
- 上田
- その肝の火が心に及ぶと肝心火旺となります
- 立野さん
- 頭の中で火が燃えているってことですか?
- 上田
- イメージとしてはそんな感じです。ある意味、燃えるのはエネルギーがあるから燃えることができるわけですが、その状態が長く続くとエネルギー不足になります。そのときはすでに肝火はそれほどひどくないのに、または疲れているに眠れないということが起こってきます。こうなると心神不寧として治療します
- 立野さん
- ・・・・・
- 上田
- 立野さんの治療は、心を補うことがメインとなりますね。治療原則は寧心安神です。できない自分を責めるのではなく、できた自分を褒めてあげましょうね
- 立野さん
- はい
- 上田
- それでは始めて行きます
- 立野さん
- お願います
1~12回目
治療を開始する。鍼灸は初めて。早く良くなりたいと週に2回の来院を希望。
13~20回目
仕事が終わるころにはとても疲れてしまい、週に2回はなかなか来院できない。
21~28回目
週に1回のペースの来院を継続。薬の量が減る。
29~39回目
薬はまったく飲まなくなる。眠れることに対する不安がかなり軽減したとのことで、月に1~2回に来院のペースを減らす。
ストレスによって肝(ストレスに対応する臓腑)の気が滞り、肝鬱気滞から肝鬱化火となり、それが心神(脳)に影響した心肝火旺の状態です。仕事上のストレスには、仕事量が多すぎるといった仕事そのものによるものもありますが、多くは人間関係によるものです。眠れない状態が続くと鬱病になる可能性が高くなってしまいます。このようなときは心肝の火を降ろし、心神安寧を図らねばなりません。
治療は肝や心が平静になり、ストレスに対応できる元の状態に戻すことを目的にします。また自分に厳しくし過ぎるのはよくありません。体調がすぐれないのは、すでに十分がんばっている証拠ですから、自分を労わる気持ちが大切です。立野さんは、物静かな印象は初回時から変わりませんが、薬の量が減ったころから幾分声のトーンが上がり、笑顔も見られるようになりました。
起きている出来事に対して見方・考え方を変えることができればスンナリと状況が変わることもありますが、わかっていてもそれができないから体調を崩してしまうわけです。治癒・再発防止のためには勤務先の理解と協力が必要な場合もあります。
※考え方を変えるのは簡単なことではありません。
行動を変えるのが先で、考え方はその後に自然に変わってくる。最初に考え方を変えようと思うと、心に大きな負担が掛かる。「何事も心のもちようで違う」などというこの言葉は一時しのぎでしかない。心にフタをしているようなものだろう。
「あなたを守る・子宮内膜症の本」引用